第42章 身を尽くし
「私は最強でもなんでもない。ただの人間だし、怖がりだし、泣き虫だし、ポンコツだし、何にもできない馬鹿でしかないんだよ…!!」
情けなくそう吐露すると、巌勝は急に上着を脱いだ。何事かと思えば、がっと私の頭を押さえ込んだ。
咄嗟に抵抗しようとしたが、そんな間もないほどのはやさで上着を被せてきた。
そして、そのまま私の頭を自分の方に無理やり押し付けた。
私の後頭部に彼の大きな手が回ってくる。
「あの」
「泣け」
「え」
巌勝は冷たく言い放った。…けれど、奥深くにあるその感情は……。
「泣け、私は何も見ていない。」
「……なんで」
「もう鬼殺隊ではないからだ」
とても優しくて、繊細で、あたたかい。
「いや、もう、散々泣いた、たくさんの人に、弱いとこ、見せてきた」
「………」
彼の体温もあたたかかった。
「強がってどうする」
「………」
「弱くてもいい、助けてと泣いてもいい」
堪えきれなかった。その優しさに、涙があふれた。
「誰だってそういう時がある。助けてと言うのは罪ではない。弱いことは罪ではない。強いことが正義ではない。」
「……う…」
「胸を張れ、」
どうして。
どうして、お前がそんなことを言えるの。
その後、私は大声をあげて泣いた。
憎くてたまらなくって、怖くて仕方がない、巌勝の胸に縋り付いて大泣きした。
もう理由もわからない。今のこの現状に当てはめる言葉が見つからない。
理屈でもなんでもない。
私という人間が、泣きたいと思って泣いたんだ。
巌勝はそんな私を受け止めてくれていた。それが信じられなくて、それでもすがりつくのをやめることができなかった。