第42章 身を尽くし
お店に戻ると、アリスちゃんは店内の片付けをしていた。
「おかえり!ずいぶん楽しんできたのねえ。」
にこやかに笑うアリスちゃんはいつも通りだった。
悲しいほどのいつも通りだった。
「童磨くん捕まったよ」
「え?」
彼女は顔を引きつらせた。驚いた表情にも見えたが、本当はそうではない。
「アリスちゃん」
そんな彼女に私は笑いかけた。
「………」
アリスちゃんがスッと目を細めた。いつもの彼女ではない。冷め切った表情だった。
「童磨に聞いたの?」
「いや、私が気づいたの。」
「そう。」
はあ、と深いため息が彼女の口からもれた。
「じゃあもう出ていくのかしら?あのバカでかい絵を担いで出ていくわけ?」
「まさか。私に出ていかれて困るのはアリスちゃんじゃないの?」
「まあ。」
アリスちゃんはクスクスと笑った。そして、どこか遠くを見るように私から顔を逸らした。
「そうしてもらえると、助かるかな」
私はその感情を読み取ることができた。
「……かわいそうに。」
気づけばそう呟いていた。
「___悪人になりきれないなんて、本当に可哀想な人。」
アリスちゃんは何も言わなかった。私も無言で自室に戻った。
窓の外に見える景色はもうすっかり秋で、冬の気配さえした。
「……アリスちゃん」
また一つ、大切なものを失っていく。
こうして私は一人になる。
信じられる人も、尊いと愛せるものも消えていく。まるで裏切られた気分になる。
この瞬間が、本当に嫌いだ。