第42章 身を尽くし
懐かしい夢を見たせいか、いつもより寂しいという気持ちが強くなった。けれど今のこの状況を望んだのは私だ。何も悔いはない。
「ねえ、ちゃん。不死川には言わなかったけど…私、童磨のことで思い出したことがあるわ。」
「……え?」
静まり返ったお店の中で、アリスちゃんが唐突にそう言い出した。
「私たちが大学にいた時、自分たちの作品が美術館で飾られたことがあったでしょう。童磨の絵は大学のお偉いさんに選ばれていい賞取ってたわね…まだ美術館に飾ってるかもしれないわ。
今思い返してみてもはっきりと思い出せないんだけど、蝶々がいっぱい描いてあったような気がするわ。私、『何描いてるの』って聞いたことがあるのよ。
『初恋の人』ってアイツ言ってたけど、もしかしてあれってちゃんのことなのかしら。」
アリスちゃんは首を傾げた。
…蝶々?
「一応聞くけど、私に蝶々のイメージってあるの?」
「ないわ。あなたを知っている人間なら全員そう答えるでしょうね。」
「………」
「だから不思議だなあって。」
蝶々?童磨くんが?
「私は全然覚えてないや。」
「宇髄先輩の背中ばっか追いかけて眼中になかったんでしょう。」
「……否定できない。」
大学の時は先輩みたいになりたい!ってそれだけを考えていたからなあ…。
「でも気になるなあ。」
「もしかしたら美術館のサイトとかに載ってるかもしれないわね。」
二人で調べてみたが、それらしきものは見当たらなかった。
…まあ、何年も前のことだししょうがないか。
「行ってみようかなぁ…」
「え?美術館に?」
「うん」
「でも、絵がある保証はないわ。無駄足かも…。」
心配そうにアリスちゃんは言った。私はそれに対して安心させるように微笑んだ。
「いーのっ。普通に美術館行きたいし。」
「……呑気ね。はあ、こんな話するんじゃなかったわ。」
アリスちゃんは呆れていたが、お店の手伝いが終わった午後から私は美術館に向けて出発した。こういうお出かけは久しぶりですごくワクワクした。