第41章 可哀想な人
テレビは置いていないので部屋には静かな音が響いていた。実弥は文句一つ言わず黙々と食べている。
でも、いただきものの大根で作ったふろふき大根に手をつけた瞬間。
「うまい」
急にポカンとしてそう言うので驚いた。
そういえば、煉獄くんって美味しいもの食べたときにうまいうまい!って騒いでたなあとどうでもいいことを思い出した。
いやそんなことはどうでもよくて。
「うまいって何が?」
「なんかこの……馬鹿でかい大根」
「………」
え?でかい?うそ、ちゃんと切ったのに??
いやだからそんな余計なことは本当にどうでもよくて。
「……ふろふき大根のこと?」
「え、これふろふき大根なのか」
「じゃあ何に見えてるの!?」
“馬鹿でかい大根”にしか見えないらしかった。やめてよ。そんな真顔で聞いてくるのはやめてよ。すごく心に響くんだから。
「味噌だってちゃんと付けたじゃん!!」
「…?」
「味噌と認識できないほど!?」
「……いや、その…出汁がなみなみ入ってるから、多分底に沈んでるか混ざっちまってるか…」
私を傷つけないようになるべくオブラートに包もうとするのがなおさら辛い!!!もうはっきりと『おかしい』と言ってくれ!!
「……出汁はたくさん入れろって言われたから…」
「誰にだよ?」
「それは……」
そこで言葉が止まった。
…?
誰?あれ?誰だっけ。他人に自分の料理を食べさせることなんてほとんどないし、実弥でさえ私のふろふき大根を食べたのは初めてのはず。
『お出汁、美味しいです』
『いっぱい入れてください』
……………思い出せない。
お椀を両手で持って、ナベの前に立つ私にそう言ってくるのは、誰だったっけ。珍しく美味しいなんて言うもんだから、張り切ってよそったら今にも溢れそうなほど出汁がなみなみで……。
こぼさないようにと頼りない足取りで歩く背中が…
本当に愛おしくて……
「思い出せないや。勘違いしちゃったかも?」
「は?思い出せや。気に食わねェ。」
「無茶言うな!?」
何が気に食わないのかはいまいちわからないが…。大切な思い出だった気がする。けど何も思い出せないや。
どうして忘れちゃったんだろう。