第41章 可哀想な人
実弥の恐ろしい一面を垣間見たところで店の扉が開いた。
「ただいま」
大きな段ボールを抱えたアリスちゃんが帰ってきたのだ。
「きゃっ!アリスちゃんおっかえり〜〜っ!!!」
「おい待てっ、まだ話は終わってねえぞ!!」
またとないチャンス!
実弥をよそにアリスちゃんに飛びついた。よっしゃ解放された。
「何?テンション高いわね、気持ち悪いわ。」
「それなあに?そんなに買い物したの?」
「私が買ったのは電球よ。ストック切れてたからね。これは、近所の農家さんにいただいた大根!」
ドスン!!という音とともにアリスちゃんが段ボールを床に置いた。中には大きな大根が葉っぱ付きで数えられないほど入っていた。
「頂き物だから商品にはしないけどね。じゃバイク戻してくるわ。」
いや、アリスちゃんその華奢な細腕でどうやってこの重さの段ボール運んだんですか?????
アリスちゃんが戻ってくるまでに奥に運ぼうとしたのに私一ミリも動かせないんですけど???
「どこに持っていくんだ」
すると、脇から入ってきた実弥がひょいとクソ重い段ボールを持ち上げた。
「お前もかよ!!!この脳みそまで筋肉どもめ!!!言っとくけどこの世は筋肉が全てじゃないんだからな!!ヘロヘロの腕でも1日中絵を描いてるんだからな!!全然惨めとか思ってないんだからな!!!」
「お前、重いもの持たない方がいいんじゃ……一緒に運ぶか?」
「場所はこちらです!よろしくお願いします!!!」
実弥が軽々しくおくまで運んでくれた。そのうちアリスちゃんが戻ってきて、段ボールの中の大根を数え始めた。
「ちゃん、欲しいだけ持っていっていいわよ。」
「え?いいの?」
「ええ。二人でどうぞっておっしゃっていたもの。あなた、もう立派な看板娘だものねえ。なんてったってちゃん……」
アリスちゃんはクスクスと笑った。そして、なんだか悪い笑顔で実弥に言い放った。
「男のお客さんからモテモテだからねえ。」
「俺はいつでもやれるぜ加賀美さんよォ」
「上等だ蹴っとばしてやるよ」
バチっと火花散らす二人を無視して、私は大きな大根を三本持ち上げた。