第41章 可哀想な人
「」
そこで現実に戻った。
目の前には変わらず巌勝がいた。
「…」
え?今の何?
…どうして巌勝の過去の記憶が見えたのだろう。阿国や陽明くんみたいに力があれば見えるって言うけど。
初めての出来事に戸惑っていると、彼は深くため息をついた。
「私の記憶を見たのか」
「え…」
「阿国もよくそうやって私の過去を覗いていた。」
懐かしそうに言うので涙も引っ込んでしまった。
「……ねえ、阿国の話聞いてもいい?」
「…お前はそんなことをしている場合か?それに、もう阿国のことは知っているのだろう。」
「ううん、違うの。あなたから見た阿国の話が聞いてみたい。」
そう言うと、彼は渋々でもすすんででもなく、呼吸をするみたいにスラスラと話を聞かせてくれた。
その横顔は今まで見た中で最も優しい表情だった。
そうやって長々と話をしていると…
「それから阿国がグゥッ」
「ぎゃあああーーーーーー!?巌勝ぅーーーーーー!!」
急に彼が砂浜にぶっ飛んだ。気配を感じて咄嗟に振り向くと、そこには飛び蹴りを喰らわせたであろうアリスちゃんの姿が。
「おいスーパーロン毛野郎てめえいつまでちゃんとイチャイチャしてんだよ」
「わ…わ、私は別に…」
「こ ろ す ぞ」
アリスちゃんは巌勝を足蹴にして転がせた。
……元上弦の壱が見る影もないな。
突然のことで受け身も取れなかったみたい。地面が砂浜で柔らかかったことが幸いしたらしいが、場所が場所なら捻挫とかしてたかも…。
「すぐ戻ってくるかと思えば何時間も居座りやがって……ちゃんと二人きりになりたければ事務所通しな!!!」
「じ、事務所?」
「私だよ!!」
巌勝は意味もわからずにただただ頭を下げていた。
私はあまりの勢いに口も挟めず、ただ茫然と立ち尽くしていた。