第41章 可哀想な人
巌勝は目を見開いていた。どうやって取り繕うかと考えていると、彼が先に口を開いた。
「なぜお前が阿国を知っている」
どこか威圧的な態度に思わず私もムキになってしまった。
「私に向かって阿国阿国と未練たらたらに叫び続けていたのはどこの誰よ!いやでも知ろうと思うじゃない!」
「……やはり、阿国も転生していたか」
「ちょっと!!」
勝手に自分の世界に入る巌勝に声が大きくなってしまう。
「阿国のことなど言ったわけではない。…言葉の綾だ。行くならば行けばいいだろう。」
彼からひしひしと嘘の気配がした。
「そんな嘘は許さないよ」
私がきっぱりとそう言うと、彼は人でも殺せそうな視線で私を睨んできた。
「私に構っている場合か?お前は明日にでも童磨に殺される身だぞ。」
「いいわ。殺されたってかまわない。でもそうなる前にその言葉を撤回しなさい。」
「黙れ。撤回する言葉など一つもない。私は阿国が憎くてたまらなかった。だから殺した。」
ムカッとして平手打ちを食らわせようかと思ったが、私の手は直前で止まった。
「どうした?」
「……」
「叩けばいいだろう。そうやってお前は戦ってきたのだ。違うか?」
煽られても叩こうという気にはならなかった。
「っ…!!」
ただただ悔しい気持ちで、叩いてもその気持ちが晴れることはないと分かりきっていた。
「なんで」
「……」
「なんで、阿国を理解してあげられないの?」
今もあの子は苦しんでいるのだろう。けれど、あの子が自分を幸せだと笑っている限りそれには気づかない。
確かに阿国は幸せだろう。けれど、幸せを知るまでどれほどの苦しみを味わったのだろうか。
その全てを乗り越えて幸せと笑うあの子を、甘えることも学べずに一人で踏ん張ってきたあの子を、どうして。