第41章 可哀想な人
巌勝は多くのことは知らない、と前置きをしてから話し始めた。
「童磨は宗教団体で教祖をしているが、それは表向きの顔だ。本当の顔は詐欺師…とでも言えばいいか。」
「詐欺…」
「多くの犯罪に手を染めているが、今回の事故のように全く証拠がつかめない。アイツは捕まることがない。」
一連の事故に不自然な点はたくさんあった。私は彼が犯人だと証言までした。…それでも捕まらないとは、どれほど狡猾なのだろうか。
「巌勝が知っているなら、無惨も童磨くんのことを知っているの?」
「そうなるな。…何か悪いことを企むと、ここら辺ではそこかしこに童磨の手の者がいる。いやでも知ることになった。まあ、私たちは罪など犯していないが。」
「私を誘拐したのはノーカンだって言いたいの?」
巌勝は私の発言をさらっと無視した。
「童磨を追うのは本当に危険だ。目をつけられれば逃げられないこととなる。」
「…そっかあ。……じゃあもう私終わりじゃない?」
「一つだけ逃げる方法がある。」
少しだけ間があった。
「童磨の元に行けば良い。奴が君臨する教団に入るしか道はない。」
「え…それってどっちにしろ私は童磨くんに狙われ続けるってこと?」
「狙いはお前だ。ターゲットがそばにいれば童磨は何も起こさないだろう。」
………。
そうか。
童磨くんは今私を狙っている。彼を崇める宗教団体そのものが私の敵だ。だとすれば、彼を止めるよりも私が……。
「……その」
「なんだ」
「…教団に、入っちゃったら……私ってどうなるの…」
童磨くんは正直苦手だ。怖いとさえ思う。
彼のそばにいることに私はきっと耐えられない。それに、宗教とか全く縁がなさすぎて想像もつかない。
「お前に幸せはないだろうな。」
「………」
体温が下がっていく気がした。指先が冷たい。必死に拳を握るけれど、震えが止まらなかった。