第41章 可哀想な人
私は黒死牟に殺された。
人間の、私は。
私は鬼だった。鬼として死んだのはそれよりずっと後だ。だとすれば、私が狙われるのは一番最後なのでは?
だとしたらそれまでに何人が標的になるのだろうか。
「童磨がお前を人間として考えているのか、鬼として考えているのかでこれからのことは変わってくるだろう。」
「……どうしたら止められる?」
「警察に行け。」
巌勝はゴミを持って立ち上がる。私は慌てて彼に続いた。
「もう警察は知っているの。動いてる。でも童磨くんに行きついていないのよ。童磨くんのことを伝えたけど……今どこにいるのかわからないって。」
「ならば何もするな。お前が無視すれば大人しくなる。」
「できない!」
私が声を大きくすると巌勝は立ち止まって振り返った。空の容器をゴミ箱に投げ、冷ややかな視線を私に向けた。
「もう一度言う。何もするな。」
「………っ!」
「本当に死人が出るぞ。」
巌勝の言葉は重みがあった。私はぐっと拳を握りしめた。
「……みんな、今は平和に…幸せに生きているの」
「……」
「私…」
脳裏に浮かぶのはみんなの笑顔。こんな私にも親切にしてくれた。大切に私を思ってくれた。
「守りたいって思う、から。……ううん。これは私のワガママかな。みんなにはね、幸せで…長生きして欲しいの。私が勝手にそう思っているのよ。」
「そのワガママとやらを押し通すためにわざわざ危険を承知で足を突っ込むと?たとえ、そこに自分がいなくてもか。」
うん。
と、即答できなかった。
…わかってる。今の私には欲がある。
みんなが幸せに生きているだけではもう満足できない。
「…教えて。童磨くんのことで、知っていることがあるのなら…全部教えて欲しい。」
私も、みんなと一緒にいたい。
いつまでもいつまでも。
でも、私がみんなと一緒にいるとみんなが不幸になってしまうかも。
そんなことを考えて、私はこんなところまで逃げてきた。自分でも自分がどうしたいのかわからなかった。
このままで良くないことはわかっている。
いつか、私の中で答えは出るのだろうか。