第40章 好き、嫌い
再び春風さんの病室の前まで二人で向かう。不安だから手を繋いで、と言われたので彼女の手を握っているが緊張のせいかひどく冷たかった。
「…ごめん、ちゃん大変なのに、こんなこと……」
「全然……私もアリスちゃんに救われたよ。あのまま待合室にいても、ずっと怯えてるだけだった。アリスちゃんがあめくれて、話をしてくれて、すっごく嬉しかった。今も喜んでここに立ってるよ。」
「…ちゃん」
「ね?だからがんばろ?」
「…っ、うん」
アリスちゃんはポケットから手鏡を取り出した。
「…私、変じゃないかしら。……今日はお肌の調子があんまりで。」
「アリスちゃんはかわいいよ自信を持って」
「ねぇちゃんどうして真顔なの?怖いわよ?」
扉の前でゴタゴタしつつ、私たちは最後に一度だけ深呼吸をしてノックをして病室に足を踏み入れた。
「春風さーん…体はどうですか……」
とりあえず私が先頭に立って彼の様子をうかがう。
春風さんは起き上がって本を読んでいた。…顔色はよくないな。
「え、ええ…この通り。病室を抜け出してこってり怒られて…」
風が吹けば吹き飛びそうだ。ずいぶんこたえたらしい。よぼよぼしていて幸薄なオーラがにじみ出ていた。
「…おや、あなたは。」
そして私の後ろにいるアリスちゃんに気付いたらしくてにこりと微笑んだ。
「お花の人ですね。」
春風さんは病室の花瓶を見ながら言った。そこにはアリスちゃんが持ってきた花が生けられていた。…カナエがやってくれたのだろうか。
「あ、あの」
「はい?」
「私!」
アリスちゃんは一歩、また一歩と近づいた。
「私、加賀美アリスっていいます」
今にも泣き出しそうな顔で言った。
「はい…加賀美さん」
春風さんは無情にも満面の笑みでそれにこたえた。