第40章 好き、嫌い
「私でも理解できない自分がいる気がするの」
ぐっと自分の胸元を両手でおさえた。
「なんかね、ここら辺にさ…ドロドロしたものがあるんだ。さっきそれを感じたの。前にも何回か…こんなことあった。童磨くんはドロドロした私を求めているんだと思う。」
「………ドロドロって?」
「…わかんない。けど…おさえられないの。どうしても。そうなったれ私は平気で人を傷つけることができてしまう。」
ためらいなど感じず、殺しにかかっていただろう。
前世で実の父を殺したとき。
鬼に『お前はいらない』と言われたとき。
玉壺が天晴先輩を殺して逃げようとしたとき。
優鈴が自殺して、一晩中刀をふるい続けたとき。
黒死牟とたたかったとき。
今生で父親に襲われたとき。
夢にうなされていたとき。
数えればキリがない。いつでも私の知らない私は私のそばにいた。きっかけさえあれば、すぐにソレは目を覚ます。
「いつも誰かがそんな私をおさえていてくれたんだと思う。それが春風さんであり、天晴先輩であり、桜くんであり、優鈴だった。」
「………。」
あぁ、どうしてこんなことこの子に話しているんだろう。きっと困ってる。引いたかも。
「そっか」
アリスちゃんはいつもの砕けた様子で言った。
「だから童磨はその人たちを狙ったのね。」
「………う、うん…多分。」
「どう?今はドロドロしてる?」
「……わかんない。本当にわかんない。でも……おさえこめてる自信がない。」
先ほど童磨くんに向けたたしかな殺意はほんの少しだけ胸に残っていた。まだ気分は落ち着いていない。
「はい、これ」
「…え?」
「あげる。」
アリスちゃんは手にあめをのせて私に差し出した。
「あめ舐めてる間、私の話に付き合ってよ」
彼女はにっこり笑って朗らかにそう言った。