第40章 好き、嫌い
病院は大騒ぎだった。
胸騒ぎがして嫌なものを予知したらしい。みんなが売店にものを買いに行った隙に春風さんが歩けない足を引きずって病室を抜け出したらしく、そもそもそこで院内はパニックに。
そして駆けつけてみれば私が何やら大変なことになっていたのでさらに大パニック。
私は首を絞められただけで体に異常はなく、健康そのもの。首には生々しい手の跡が残ったが、まあそのうち消えるだろう…。
童磨くんの姿を見たのは実弥と私だけ。警察もきてくれたけれどいまいち説得力にはかけた。
その後は色々な人に話を聞かれ、病院内をたらい回しにされてから今は待合室の隅っこで落ち着いている。
他の人はまだ事情聴取やら騒動の対応に追われているらしい。妊婦だからと私は解放されたが…。この事実を知らなかったカナエと先輩は目を丸くして驚いていた。
…そんな事態じゃないと思いつつ、あの顔には笑ってしまった。
アリスちゃんが気まずそうに病院に戻ってきたのは一通りの騒動が終わってからだった。
私の首に残った跡を見て卒倒しそうな勢いで心配してくれた。
けれど心配していたのは私もだ。
「アリスちゃんこそ大丈夫なの?急に出ていっちゃったから心配だったのよ。」
「……ご、ごめん。」
「…春風さんと知り合いなの?」
恐る恐る聞くと、アリスちゃんはぷくっと頬を膨らませた。
「あなたねぇ、私より自分の心配をなさい」
「え?」
「自分に何が起きたかわかってるの?あのヘラヘラしてた童磨がまさかあんたのストーカーだったなんて、聞いただけでゾッとするわ。」
アリスちゃんは怪訝そうに聞いてきた。私はとっさに首もとを隠した。
「……わかってる」
「…辛いでしょう?」
「ううん。辛く…ないよ。」
私は薄く微笑んだ。
「……………けどちょっと怖い」
お腹をぐっとおさえる。
私にはこの子がいる。もしかしたら二人揃って死んでいたのかもしれない。
それに加えて、私はあの時童磨くんを……。
「私ね、たぶんおかしいんだと思う。」
「は?何が?ちゃん良い子なのに。」
「…ううん。」
そう言ってくれるのは嬉しかったが、私は首を横に振った。