第40章 好き、嫌い
ずっと嫌いだった。
なぜか癪に触った。絶対関わりたくないと思って、無意識のうちに彼を避けた。
その理由が今わかった。
そうだ。
彼は、鬼だったんだ。
「俺ね、ずっと君を追いかけていたんだよ。」
童麿くんはそう言った。
「いつだったかなあ、君はまだ小さかった頃だよ。お人形みたいに可愛くて、ちっちゃくて、ぷにぷにしていた。そのときに俺は君を見つけたんだ。はっきりと覚えてるよ。氷雨春風と一緒に任務に行ってた!
そのときにねえ、とっても素敵なものを見たんだ!君ねえ、怒ったんだよ!!まるで鬼みたいに、獣みたいに!!なんか嫌なことを言われたみたいでね、氷雨春風が何言っても響いてないみたいだった。」
……私は全く覚えていなかった。
「俺はその時の君の目が忘れられなかったんだ!あの目…!この世界の全てに絶望した目!冷静な微笑みを浮かべる君の顔が怒りでぐちゃぐちゃになっていく様……!氷雨春風を本気で殺しにかかっていたあの姿!!ああ、その姿が忘れられずにいたんだ!!
だからずっと君を追いかけた。君がもっと強くなって美味しくなったら絶対に僕が食おうって思っていたんだ。君ってばガリガリで美味しくなさそうだったからさあ!!
でも。」
童麿くんはギョロリと目を大きく開けた。
私は彼が何を言っているのか理解できず、ただただ背筋が凍る思いだった。
覚えてない。記憶にない。何?春風さんと任務に行って私が怒った?彼を殺そうとした?なんで?いつそんなことがあった?
「君は強くなりすぎたよ」
童麿くんの感情がほんの少しだけ揺らいだ。かすかに憎悪のようなものが見えた。
「なんでかなあ。なんであんなに強くなっちゃったの?あんなに強かったら俺は勝てない。君に頚を斬られて死んでしまう。君と闘いたい。もう一度あの時の君に会いたい。会って食べたい。けれど、君に殺されてしまってはその願いも叶わないじゃないか。」
しかし。
その憎悪はすぐに消えて、彼の感情はまた波風一つ立たなくなってしまった。