第38章 誰も知らないはずなのに
散々泣き喚いて、今は疲れてぐったりとしている。
先生たちは目の前で人が轢かれたところを見たので、精神障害を疑っていたが、もうその相手をする気力もなかった。
私はただボロボロと涙を垂れ流して桜兄妹の病室の前にある椅子に座っていた。
誰に何を言われてもそこから動こうとしなかった。いや、動けなかった。足が何かに絡まったみたいに重かった。
兄妹の両親が駆けつけてきて、ボロボロに泣いている様子を見てもそれは変わらなかった。
二人とも、私にはもう帰るように言ってくれたが私は動かなかった。
そのうち二人のお母さんが見ていられないとひどく泣くので、旦那さんが連れ添って待合室の方へ歩いて行った。
アリスちゃんと実弥くんは私を心配してくれていたが、一人にしてほしいと言うとこの場を離れていった。
守れなかった。気づかなかった。
桜くんは、わかっていた。
だから私に話があると言ってきた。次は自分の番だと気づいていた。あの子は。私だけだ。気づいていないのはきっと私だけ。
涙が止まらない。
もう目の前さえも見えない。
この順番は、誰も知らない。
知っているのは、その時を生きていた者のみ。
生きていた者は軒並み今倒れている。
この順番を知っている者のみがこの事件を引き起こすことができる。
この順番を知っていて、残ったのは。
この順番を知っていて、今も無事なのは。
その時にカタン、と音がした。
気配で誰かわかった。優鈴がきたのだと。
優鈴は私なんかには構わず、病室にさっさと入っていった。肩で息をしていた。
様子を見たらすぐに出てきた。
「はあ、はあ」
優鈴の荒い息が聞こえる。
「はあ…っ…はあ…」
走ってきたのだろう。
私の前に立ってもなお息を切らしていた。
今までの一連の事件を起こすことができるはずの、私の前に。