第38章 誰も知らないはずなのに
目を覚ますと見慣れぬ天井だった。
「」
実弥が私の顔を覗き込んだ。
「ああ、目が覚めましたか」
それと同時に優しそうな病院の先生が私を見下ろしていることに気づいた。
「事故に遭われたご兄妹のお知り合いなんですよね?目の前でその場面を見てしまわれたので、精神的ショックが強かったのでしょう。あと、少し貧血気味でしたね。」
そう言われて私はハッとした。
「あの、私、妊娠してて」
「はい。お腹の子は大丈夫ですよ。元気いっぱいです。」
そう言われて、ホッとした。
「もう大丈夫そうですね。いつでも起き上がっていいですよ。」
先生はそう言って病室から出て行った。簡易的な病室なのか、少し手狭だったが急に倒れた私を快く受け入れてくれたのだ。感謝しかない。
「……っ、こんな時に」
私はすぐさま起き上がり、桜くんたちのところへ行こうとした。しかし、実弥がそれを止めた。
「、焦るな。もう少しゆっくりした方が…。」
「でも!」
「二人はもう手術室から出た。行っても誰もいないわよ。」
入り口から声がしたかと思えば、そこにはアリスちゃんがいた。
「!本当!?無事なの!?」
「…ええ。手術は成功。お兄さんはもう大丈夫ですって。」
「……お兄さん“は”?」
私は震える声でその先を聞いた。
「……妹さんは…今晩が峠、だそうよ」
アリスちゃんが言った。
うそ。
そんなのウソ。ウソだよ。冗談だよ。これは、夢。夢なんだから。私きっとまだ寝てるんだから。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
どうしてあの子が。
関係ないじゃない。だって、鬼殺隊でもないじゃん。あの子の順番じゃなかったはず。
どうしてハルナちゃんが。
「あ…あぁ……あああ!!!」
私は頭を抱えた。
耳鳴りがする。頭痛がひどい、眩暈もする。
それでも涙だけは止まらない。
「あああ…!!!」
「…!落ち着け、大丈夫だから!!」
鮮明に思い出せる過去の記憶。私はもうハルナちゃんを失った桜くんは見たくない!!
「うあああああぁぁぁーーーッッ!!!」
私は声をあげて泣いた。その声を聞きつけ、病院の人が何人か駆けつけてきた。実弥は咆哮を上げてのたうちまわる私を懸命におさえこんでくれた。