第38章 誰も知らないはずなのに
「何だよ、コレ」
優鈴が言った。
静かな声だったけど、威圧感しかなかった。
「何でこんなことになってんだよ」
パン、と音がした。
優鈴が私の右頬を叩いた。
「何で」
今度は左頬。
ジンジンと痛む。
その痛みを感じると同時に涙が止まった。
「お前しかいないじゃん」
優鈴が怒っていた。
また私の頬を叩く。
「犯人お前じゃん」
叩く、叩く。
パン、パンという乾いた音が静かな廊下に響きわたっていた。
「お前のせいだ」
優鈴がまた私を叩く。
「何で…」
もう一度叩こうとしていたが、ピタリと動きを止めた。
「何で、ハルナちゃんまで…ッ!!!!!」
優鈴は順番を知っている。
だって、彼は私の同期。その時を生きていた。
けれど、柱ではなかった。ただの一隊士。
でも、私は柱だった。
当時を生きていた、柱だった。
「なんであの子まで………!!!!!」
優鈴がボロボロと涙をこぼした。
「お前、最強じゃないのかよ」
叩く
「何で目の前で止めなかったんだよ」
叩く、叩く
「何で」
叩く、叩く、叩く
「なんでお前なんだ」
優鈴がまた手を振り上げた。
しかし、いつまで待っても振り下ろされることはなかった。
そこで初めて顔を上げた。
「やめろ」
気配でわかっていた。
実弥だ。
「の顔、真っ赤じゃねェか」
「……」
優鈴の手も真っ赤だった。ああ、きっと痛いだろうな。
「……関係、ないじゃん」
優鈴は泣き叫んだ。
「ハルナちゃんは関係ないじゃんッ!!!!!」
私はまた涙を流した。
「………」
優鈴は実弥の手を振り払い、大股で去っていった。
「…飲み物、買ってきた。これで冷やした方がいい。」
実弥は私の隣に座り、そう言って冷たいお茶のペットボトルを頬に当ててくれた。
「……う、ぅ…」
「…うん」
実弥は私の頭を自分の方に引き寄せ、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「うええええん、えええん」
子供みたいに泣きじゃくった。
彼の体にしがみついて、えんえんと泣いた。
実弥は黙って、ただじっと私の体を支えてくれた。
どうして、どうしてどうしてなの。
あの順番は。あの順番は…。
誰も知らないはずなのに。