第38章 誰も知らないはずなのに
ありったけの力で圧迫した。
「しゃべっちゃダメ!!」
私は必死に叫んだが、彼はまだ話し続けた。上着にどんどん血が染みていく。ああ、全然血が止まらない!!
「はっ、はっ、…ハルナ」
「だ、大丈夫、生きてるから」
ハルナちゃんは頭を打ったのか意識はない。桜くんは荒い息を繰り返していた。
「今はしゃべらないで!!!」
「きけ!!」
桜くんは息も絶え絶えに叫ぶ。私はダメだと思いつつ、彼の口元に耳を寄せた。私たちの周りにはたくさんの野次馬が集まっていた。
「ッおもいだせ!」
桜くんは血まみれの手で私の服をぎゅっと掴んだ。二人から流れる血で私の服も真っ赤に染まっていった。
「じゅんばんだ!!」
桜くんは掠れる声で叫んだ。しかし、周囲の人が騒いでいるのでその声は私以外には届いていなかった。
「…ぜん、…ぶ」
声が小さくなっていく。
「…ぜ、ん…ぶ……」
その時、一気に当たりは騒がしくなった。
「______」
「どいてくださーーいっ!」
私は押しのけられた。それは救急隊の人で、病院から来てくれたのか二人分の担架を持って来ていた。桜くんはだらんと力なく腕を垂らしていた。…ああ、もう意識がないんだ。
「待って」
運ばれていく二人に私は手を伸ばした。でもすぐに動けなくて。聞こえなかったの。周りの声にかき消されちゃって、最後の言葉。
お願い。
もう一度言ってよ。私に教えてよ。
「ねえ、大丈夫!?」
しかし、それさえ止められた。そばにいた見知らぬ女性が私が伸ばした手をぎゅっと掴んでいた。
「知り合いだったの?中まで連れて行ってあげようか?」
私はそこで現実に引き戻された。
優しいその女性に手を引いてもらって病院まで戻り、中にいたアリスちゃんと合流した。そこで桜くんのお家に連絡し、二人が事故に遭ったことを伝えた。
二人は手術室に運ばれ、私は部屋の前で椅子に座って手術が終わるのを待っていた。二人とも危険な状態だから、覚悟しておくようにと言われた。
ハルナちゃんは外傷こそはないが内傷がひどいらしく、桜くんと状態は変わらないという。
その後実弥はしばらくして戻ってきた。
私はもう顔を上げることができなかったし、何も話せなかった。アリスちゃんが手を握ってくれていたが、私の手は冷たいままだった。