第38章 誰も知らないはずなのに
「ッおい!!!!!戻れ、ハルナッ!!!!!!!」
その数秒前に、怖い顔をした桜くんが走り出していた。そして、実弥も動いていた。
私はようやくそこで気づいた。
ハルナちゃんに向かってトラックが向かって来ていた。
そこからは時間が止まったみたいだった。
ハルナちゃんがトラックに気付き、足を止める。私の横を実弥が走り抜けていく。だが、遠い。間に合わない。
私の足は地面にへばりついたように動かなかった。
代わりに、先に動き出していた桜くんが届いた。
手を伸ばし、妹を抱きしめる。
その時私と目が合った。
直後にトラックが横切った。
二人がおもちゃのように吹き飛び、緩やかな曲線を抱いて地面に叩きつけられた。しばらくゴロゴロと転がり、私のすぐそばで止まった。
すぐにだらりとどちらのものかわからない血が流れて血溜まりを作った。
周りにいたひとたちが叫び声をあげ、泣き、パニックを起こす。
アリスちゃんがすぐにさっきまでいた病院へ駆け込んでいくのが見えた。恐らく事故のことを伝えにいったのだろう。
「ッの野郎!!」
実弥は二人を轢いて停車したトラックの方へ向かった。
私は呆然としていたが、すぐに膝を折って二人に手を伸ばした。
「…さ、くら、くん」
返事がない。
「ハルナ、ちゃん」
桜くんはお腹から大量に出血していた。ハルナちゃんは右手があべこべな方向え曲がっていたが、桜くんが庇ったからか目立った外傷も特になかった。
「い、…いってぇ…」
信じられないことに、桜くんはまだ意識があった。
「…め、さ…りさめ……さ」
うわごとのように私の名前を呼ぶ。私は慌てて来ていた上着を脱ぎ、傷口に当てた。