第38章 誰も知らないはずなのに
次の日。
私はどうしても天晴先輩に会いに行きたいと言った。するとアリスちゃんがついて来てくれると言うので、一緒に病院に行くことになった。
今日はこっちに来る予定だった実弥もそれには納得で、病院で待ち合わせになった。
「今日は殴らないでやるわ」
会って開口一番にアリスちゃんは実弥にそう言い放った。うん。いつもそうであってくれ。
いっぺんに三人で押しかけるわけにもいかず、病室には私一人で行くことになった。アリスちゃんは一緒に来てくれただけで、先輩の知り合いでもないからというのもある。
心配なのはこの二人が一緒に待つ…ということ。
「お願いだから喧嘩しないでね…」
そう言うと二人は互いを睨みつけて花火を散らした。ここは信じよう。私は急いで先輩の病室に向かった。
数回ノックしてから扉を開けた。
「霧雨ちゃん」
中にいた先輩はにこりと笑った。もう起き上がってはいるけれど、体中包帯でぐるぐる巻きだった。その姿に私は情けなく目に涙を溜めて、そばに近寄った。
「春風のことがあったばかりなのに、心配かけたわね。」
「……いいえ…!無事で、ほんとによかったですっ!」
「……ほら、もう泣かないの。」
先輩は優しく私の頭を撫でてくれた。…先輩の方が辛いはずなのに、私に慰めてくれるなんて……。
「昨日は実弥くんも来てくれたしね。ていうか驚いたわ。入籍してたなんて。なんで言ってくれないのよ。」
「あ、アー…色々あって」
「まあ、あなたたちのことだから信用してるしもう疑うようなことしないけど。……ね、またお祝いを……。」
すると、そこまで話して先輩が言葉を止めた。しばらく頭を抑えていたので私はギョッとした。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「…っごめんなさい、まだ本調子じゃないのよね。」
「あ…そ、そうですよね」
天晴先輩は横になりたいと言うのでゆっくりとベッドに横になった。
「はあ、生きてるだけラッキーよね。あとちょっと血が出てたら死んでたって言われたわ。」
「…それは本当によかったです。あ、あの、私は今日は帰りますね。お大事になさってください。」
「ええ。まあ入籍まで何があったのかまた教えてちょうだいよ。」
先輩はしんどいだろうに、にこりと笑って送り出してくれた。私はお見舞い品のお花だけを置いて、病室を後にした。