第38章 誰も知らないはずなのに
ニュースが流れてから時間が経ち、夕方にもなるとすぐにネットニュースや芸能雑誌、新聞などで大々的に取り上げられていやでもその事件を目にすることとなった。
それを見るたびに、やはり天晴先輩が事故に遭ったのだと思い知らされる。
『意識は未だ戻らず』『出血がひどく、今も眠り続けている』『事故の原因は不明』
どこかに先輩の無事を知らせる記事はないかと必死に探したがどこも書いてあることは同じだった。電話や連絡をしたくてももちろんできない。天晴先輩と最も中の良い春風さんは今連絡を取れる状態ではなかった。
「ちゃん、電気をつけなきゃ。」
夕方になり、暗くなった部屋の中でスマホと睨めっこをする私にアリスちゃんが声をかけた。一階の店で仕込みをしていた彼女がいつの間にか二階の私の部屋の前にいた。
パチン、と音がすると部屋が明るくなった。
「…大丈夫…じゃ、ないわね。まさかあの安城天晴とちゃんがお友達だなんて思わなかったわ。」
「……どうしよう、アリスちゃん。先輩の無事を報せる記事がどこにもないの。もう事故からだいぶ経ってるのに…!!」
私は顔を覆って泣いた。アリスちゃんは私を抱きしめてくれた。
「泣いてはだめ。いついかなる時も、大切な人の無事は信じなさい。疑ってはいけないわ。」
「……ッ…うぅ…!!」
彼女の腕の中でしばらく泣いた。
アリスちゃんはずっとそばにいてくれた。
夜、一人で部屋にこもっていると実弥から電話がかかってきた。
『今、天晴先輩に会ってきた』
唐突にそう言うのでギョッとした。
『仕事終わってから桜に病院教えてもらったんだ。』
「ほ、本当!?」
『意識戻ってた。記事で書かれてるよりは良い状態らしい。顔にほとんど傷はなくて、体にも残らないってよ。』
それを聞いて、体から力が抜けていった。
張り詰めていた緊張の糸がようやく緩んでいく。
「よかった…ッ!!」
涙で視界が滲んでいく。
『これで眠れそうか?』
実弥の優しい声が聞こえた。…ああ、さすが。私のこと、わかってるなあ。
「うん…」
私は泣きながら電話を切り、ひとまず胸を撫で下ろした。