第38章 誰も知らないはずなのに
またアリスちゃんとの暮らしが始まった。変わったことは、実弥と連絡を取るようになったこと。
ついこの前まであんな状態だったのに、元に戻るときは随分あっさりしてるもんだなあ。
あれよあれよと言うまにもう一週間が経つ。明日は実弥が来る日だ。…アリスちゃんは来るなと騒いでいたけれど。
春風さんは徐々に回復しつつあるらしいが、元通りに歩けるかはまだわからない…とのこと。
けれど話せるようにもなったし、ご飯ももぐもぐ食べているらしい。もっと具合が良くなれば私もお見舞いに行こうと思う。
「はあああああああ〜もう、枯葉うっとうしい!」
アリスちゃんは愚痴を言いながらお店の前の落ち葉をはいていた。私はその様子を見ながらお店の中の片付けをしていた。
店内に取り付けられた古いテレビがニュースを垂れ流していたが、そちらに集中する余裕はなかった。
「秋って感じするね。」
「でも、こんなに葉っぱが落ちてるならもう冬が来ちゃうわね。」
「そうだね…私、寒いの嫌いだなあ…。」
そこで私たちの会話が終わった。だからか、ニュースの音声がよく店内に響いた。
『続いてのニュースです。痛ましい事件が起こりました……』
なんとなく、私とアリスちゃんはテレビに目を向けた。
テレビは生中継になって、とある場面を写していた。そこは芸能事務所のビルだった。有名な建物なので私も知っている。
『事故があったのはこちらです。』
ガラス張りのビルの、ちょうど3階のあたりの窓が木っ端微塵に割れていた。
「まあ、ひどいわね」
アリスちゃん落ち葉をビニールに詰めながらが呟く。私はテレビから目を離さなかった。
『中にあった機器類が崩れ落ち、窓が割れたようです。ちょうどその場に居合わせた関係者一名が負傷し、意識不明の重体です。ガラスが全身に刺さり、出血がひどいとのことです。』
じいっとテレビに見入る。
なんでだろう、目を離してはいけない気がする。
『その方は救急車で運ばれて、たった今病院に到着されたようです。』
アリスちゃんがテレビに夢中な私を不思議そうに見つめていた。
『被害に遭われたのは、モデルやタレントとして活躍されている_____』
あ。
そうだ。
この芸能事務所、“あの人”がいる事務所だ。
『安城天晴さんです_______』