第4章 夢想
「ほら、不死川さんのところまで。」
急に先生にそう言われて実弥は面食らっていた。
「おら、頑張れ。」
それでも実弥は私に向けて手を広げた。ほんの数歩の距離が、果てしなく遠いように思えた。
私は手と足に力を込めた。
しっかりしなきゃ。歩こう。歩けるよ。手も足もここにあるよ。大丈夫。前世の私が頑張ったんだから。本当に大丈夫。
「頑張れ。」
実弥もいる。
足を前に出す。
また前に出す。
「あ、霧雨さん。右足が二回出てます。左足出してください。」
「はい。」
「右足と左足を交互に出さないと歩けません。」
「はい。」
「膝を曲げて。そう。」
「はい。」
ああ、眠ってるうちに歩くのが下手になったなあ。
一歩一歩がうまくいかない。
汗が噴き出して体が強張って全然言うこと聞いてくれない。それでも回復へは向かってる。一週間も眠る前より。
「ん。」
無我夢中でやっていると、真上から声がした。
「よく頑張ったなあ。俺のとこまで来たじゃねえか。」
実弥が優しい眼差しで私を見下ろしていた。
いつの間にかこんなに近くまで来ていたらしい。気づかなかった。
気配を感じ取れなかった。集中しすぎていた。
「う、あう、ぅ」
じんわりと目に涙がたまって、すぐに目から溢れ出た。
「歩けた、歩けたあ〜!!」
「…ああ、そうだなあ。歩けたなあ。」
実弥の目にも涙が溜まっていた。
「うん、これならすぐに歩けそうですね。」
「はい…!!」
「それじゃあ今日はここまでにしましょう。」
先生に支えられてベッドに戻る。
ワンワン泣く私に先生はタオルを渡してくれた。
「やだなあ、僕まで泣いてしまいますよ。」
先生はそう言って、目頭をおさえて病室を出て行った。
いい人だなあ。ここにいる人たち、皆。