第4章 夢想
数日間、私は元気いっぱいだった。指のリハビリは辛かったけど、みんな励ましてくれたからなんとか頑張った。
まだスプーンは鷲掴みだし、ペンも持てないけど。そんなずっと寝たきりだった私に新しいことが待っていた。
その時は実弥が来ていた。
「今日は歩いてみましょう。」
「え。」
「大丈夫。歩行器で立つところから。ね。」
リハビリの先生が言う。私は初めて座った時のようになるのではと思ってしまった。
「支えますから、変に力入れないでください。あと、点滴気をつけて。」
「はい。」
私は体重を先生に預けた。支えられながら、歩行器に近づく。
「手すりをつかんでください。そう、それで足は…。」
説明を聞きながら、なんとか歩行器にしがみついた。
先生がゆっくりと私から体を離す。
完全に私一人になった。
足に体重が乗る。歩行器の手すりにしがみつく手が震える。
フラフラとしていたが、確かに立っていた。
「……わあ」
思わず声が漏れた。
「た、立ってる」
「はい、立ってます」
リハビリの先生が言う。
「本当だなあ」
実弥も言う。
私は自分が立てていることが不思議だった。
「痛いところはありますか?」
「へい…平気です。」
「じゃあ歩いてみましょう。足を前に出してください。」
私はぐっと右足に力を込めた。
体が重い。重りをつけているみたい。体全てが鉛になったみたい。
右足を出そうとした。その瞬間、あの光景がフラッシュバックした。
『その足、もらうぞ』
黒死牟。
足が斬られて、バランス感覚が保てなくて。
「霧雨さん、大丈夫ですか?」
答えられなかった。
(うるさい)
心の中で、黒死牟に言い放った。
もうお前はいない。消えた。皆がその頸を斬り落とした。
「ふ…ッ!!」
力を込めて一歩踏み出した。
リハビリの先生が簡単の声をあげる。
春風さんの気持ちが今わかった。こんなことがあっては歩けなくなってしまう。