第38章 誰も知らないはずなのに
次の日。
私たちは役場に行って、正式に婚姻届を出すことになった。つまり籍を入れるのだ。
「記念日とか、誰かの誕生日とか、出会った日とかに出すものだと思ってたんだけど…まさかこんなに電撃入籍をするとは思わなかった。」
そう言うと、実弥はまたごめんと言った。……しばらくはこの話で弱々しい実弥が見られそうだ。
もう子供がいる以上、悠長なことは言っていられない。正式に夫婦にならなければ。
「…これで私も“霧雨”じゃなくなるのか……」
私は嫁入りをするので、苗字が変わる。
「…本当に良かったのか?俺には弟と妹がいるけど、お前は一人娘だろ?」
「良いの。」
迷わずにそう言った。
実弥は不思議そうに首を傾げた。
霧雨のお役目は終わっている。この名前は戦国時代から不思議な力とともに受け継がれて来たけれど、鬼もいない世界には不要だろう。
名前を絶やさないことは力を絶やさないこと。だからわざわざ霧雨家を大きな家へと発展させたのだろう。
「不死川って素敵な響きだと思わない?」
だから、霧雨は私で最後だ。
私たちは正式に入籍した。嫌がる実弥を押さえ込んで無理に記念写真を撮ってもらった。
嫌そうにそっぽを向いていて、写真を撮ってくれた役場の職員の人が困っていた。
「なんか、私との結婚嫌がってる人みたい」
ただ照れただけとわかっていたが、嫌味っぽくそう言うと実弥はまた弱々しくごめんと言った。