第38章 誰も知らないはずなのに
その後に先輩は私に電話をしてくれたみたいだけど、つながらなかったのでわざわざあのマンションまで来てくれたと言うことを教えてもらった。
お礼を言い、私と実弥は外にでた。病室には天晴先輩だけが残った。
せめて意識が戻るまではここにいたいとわがままを言い、実弥と一緒に待合所で待つことにした。春風さんの痛々しい姿を見ていられなくて、病室にはいられなかったのだ。
「…ぅ…あぁ……あ…」
「…」
「嫌だ、嫌だよぉ……」
私はぎゅっと彼にすがり付いた。
「…足…春風さんの足が……!!」
「…大丈夫、あの人ならきっと大丈夫だ」
「………やだぁ……!!!」
実弥は優しく抱きしめてくれた。体の震えが止まらない。
ダメだ。氷雨くんの、足。それはだめ。もう嫌だ。あんな姿は見たくない。歩けなくなった氷雨くん。
やだ。
やだやだやだ。
「…疲れただろ、寝てていいぞ」
そう言われたが、眠れるはずもなく。
実弥の腕の中でただ春風さんの回復を祈っていた。
途中で、体が冷えないようにと実弥が上着をかけてくれた。
春風さんの意識が戻ったのは、彼の家族が病院に到着した次の日の朝だった。
病室に大人数で押しかけるわけにもいかなかったので、すぐには行かなかった。もう来てもいいと病院の人に言われてから病室に入った。
「…春風さん」
声をかけると、彼は微笑んだ。
話せないのだろうか。
「……よかったあぁ…」
私は彼の枕元で力なくそう言った。春風さんのお母さんがぎゅっと私を抱きしめてくれた。
「ありがとう。ちゃん、天晴くん…あなたもそばにいてくれてありがとう。」
そう言ってもう帰るように言ってくれた。仕事を全てキャンセルしたのでずっと付き添えるとのことだったので、私たちはようやく帰路についた。