第38章 誰も知らないはずなのに
部屋に戻ることはなかった。そのまま私たちは真夜中の病院に直行した。走りたかったけど、走ることはできなかったのでちまちま歩いた。
私が妊娠していると知った天晴先輩は目を丸くしていた。
「こんな事態じゃなかったら殴ってるわ」
と実弥に吐き捨て、私たちを案内してくれた。
「ここよ」
救急病院の病室だった。天晴先輩が扉を開けると、そこには呼吸器やらよく分からない点滴や機械に繋がれて白い顔で眠っている春風さんがいた。
「春風さん」
私はそばに近づいた。しかし、当然返事はない。
「…今日、会社に出勤していたんですって。……エレベーターが故障していて、階段で移動している時に転んだらしいの。その場面は誰も見ていなくて、時間が経ってから同僚の人が救急車を呼んでくれたの……。
家族は遠方に出張だから、私が家族代理として来たのよ。…今は夜だし、家族の到着は明日の早朝になるわ。」
天晴先輩はポツポツと説明してくれた。
「それで、春風さんは大丈夫なんですか!?」
「ええ。命に別状はないわ。……でも…打ちどころが悪かったみたいで…」
私は春風さんに目を落とした。恐らく転んだ時にできた青あざが顔には見えたが、頭にも特に目立った怪我はない。
「………違うわ、霧雨ちゃん。頭じゃない。」
「…!!」
まさか、と思って私は春風さんの布団をはいだ。
「あ………ぁ…」
足が、包帯で覆われていた。
「…足が両方折れてる。……どんな転び方したのかしらね。転んで落ちた時に、足が鉄の手すりに当たって、地面に叩きつけられたんだろうって先生は言っていたわ。」
「……で、も…治るんですよね!?」
「右足はそのうちくっつくみたい。…でも、左足は手術をしたわ。リハビリ次第ですって。」
「…そんな」
その場で卒倒してしまうかと思ったが、実弥がそうなる前に支えてくれた。
いやでも、前世の立てなくなってしまった彼のことが思い出されてしまう。
「…」
私は実弥の体にぎゅっと抱きついた。