第37章 動き出した黒幕
その後、スーツに着替えたおばさんと私たちで霧雨家へ向かった。…とはいえ、お隣なわけですが。
おばさんが私も一緒に頭を下げにいくと言うので、一緒に行くことになった。実弥の緊張度も先ほどより膨れ上がっていた。
私はというと、家から怒りや悲しみと言った感情は感じられなかった。まるで凪いだ海のようだった。
私はおばあちゃんとおじいちゃんを信じてる。だからこそ、怖くはない。
「行くよ」
実弥にそう言って、ドアを開けた。
「ただいま」
そう言うと、玄関で二人はにこやかに出迎えてくれた。
「おかえり」
「おかえり、久しぶりだね。」
「あらぁ、奥さんまで。」
にこやかに出迎えた祖父母を見て、おばさんと実弥は目を丸くしていた。
リビングまで通されて、お茶とお菓子でもてなされた。
「もっと早く連絡くれたら良いもの用意したのに。」
おばあちゃんは穏やかにそう言った。
「それで?話をしにきたんだろう。」
しかし、おじいちゃんの言葉に実弥が動いた。
「すみませんでした」
実弥は立ち上がったかと思えば、フローリングに星座をして手と額をついた。…つまり、土下座。
おばさんも立ち上がって実弥の横で全く同じことをした。
「申し訳ございません」
実弥はチラリと横を見た。母親にこんなことをさせて、やるせない気持ちでいっぱいのようだ。
しかし、彼は続けた。
「ご連絡させていただいた通り、今彼女は妊娠しています。身を固めたわけでもないのに、このようなことになってしまいまことに申し訳ございません。」
祖父母は実弥を見下ろしていた。
そしておばあちゃんが口を開いた。
「そうだね。たとえ、そんなつもりはなかったとしても結婚する前にそういった可能性があることをするのは良くないね。」
その言葉に何も言えなくなってしまった。
「それで、どうしたいんだ?」
おじいちゃんもおばあちゃんも笑っていた。けれど、こんなに威圧感のある笑顔は見たことがない。
「うちの孫娘をどうしたいんだ?」
けれど。
憎しみも怒りもない。おばさんと同じ。
そこにあるのは、愛情だけだ。