第37章 動き出した黒幕
気持ち悪いと言うより、緊張の方が勝ってしまったので車は停まることもなく不死川家に直行した。
到着したことは隣に住んでいる私の祖父母にもわかっただろう。けれど、そちらより先に実弥の実家だ。
実弥が先に歩いてインターホンを押した。え!?自分の家じゃん!と思ったが今はそんなことを言っている場合ではないのかもしれない。
律儀っていうか礼儀正しいな……。
「あ、間違えた」
と思ったけど間違えて押したらしい。おいこら。実はお前パニックだろ。
「ちょっと、しっかりしてくれない」
「…悪い」
実弥のふくらはぎを軽く蹴ると、彼は一度深呼吸をした。
「ただいま」
緊張の面持ちでドアを開けた。…多分、実家に戻ってこんなにドキドキしてるの初めてだろうな。
実弥の感情が伝わってきて、私まで億劫になってしまう。
お出迎えがない。玄関を見ると、弟妹たちの靴はなくておばさんの靴しかなかった。
「入ろう」
実弥がそういうので、私も頷いて彼に続いた。
リビングの扉を開けると、テーブルにおばさんが座っていた。なんだかやつれた顔で考え事をしていたようだったが、物音がしたからか顔を上げた。
そして、私たちの顔を見た瞬間に立ち上がってズンズンと近づき……。
パンッ
と、音がした。
大した威力はない。動きも遅い。
けれど、世界一強烈なビンタに見えた。
おばさんは小さな体で、大きな息子の頬を思い切り叩いた。
「なんて事をしたの、実弥ッ!!!」
でもそれは子供が憎くてしたことではない。私の母のそれとは違う。
「そんな…そんな風に育てた覚えはないんよ……!!!」
おばさんは顔を覆って、力なくその場にへたり込んだ。しばらくして、嗚咽が聞こえ始めた。
「うぅ、ごめんね、ごめんねちゃん…」
「…おばさん」
私は屈んで彼女の肩に手を置いた。
「私、実弥のことが好きです。」
そう言うとおばさんは顔を上げた。涙に濡れた頬をハンカチで拭くと、溢れんばかりに目を見開いていた。