第37章 動き出した黒幕
目先のことばかりで、そんなこと頭になかった。
そうだ。私たち、結婚もしてない。それは母子手帳を役場でもらったときに実感したはずだ。
いくら付き合っていたと言っても、今この状況は明らかに異常だ。
「……」
でも実弥のせいじゃない。
わざとじゃない。故意でこんなことしたわけじゃないから。
私がアリスちゃんに声をかける前に、実弥が動いた。深々と、自分より小さなアリスちゃんより小さくなるくらいに頭を下げた。
「わかっています」
実弥は芯のある声で言った。
「筋の通っていないことをしたことはわかっています。けれど、さんを思う気持ちは本当です。」
真剣だった。
「子供のことも、彼女のことも大切にします。このことは誠心誠意受け止めていきます。」
そして続けた。
「友人であるあなたにも認めていただきたい。お願いします。」
その言葉を聞いて、私はその隣に並んで頭を下げた。
「わ、私からも」
すると、アリスちゃんは深くため息をついた。
「そうね。それくらいの覚悟と誠意がないとね。」
彼女は頭を上げるように私たちに言った。
「良いこと、不死川…だっけ?あんた、ちゃんの家族や自分の家族にはこれ以上の言葉を持っていかなきゃいけないのよ。」
「……あァ」
「それができないって言うなら、諦めなさい。ちゃんはそれまでここから出さないわ。」
実弥がハッとして私に目を向ける。私はその視線に苦笑した。
実は、この話はアリスちゃんと一緒にしていた。実弥が誠意も何もないクソ野郎なら、私を帰すつもりはないと。
だからしばらくは実弥のところに戻らない、とさっき店ではそう言った。
「アリスちゃん、私がとんでもない男に引っかかったって思ってたのよ。」
「当たり前じゃない。宿無し状態で海でフラフラしてて、実は妊娠してて、男とは別れたとかなんとか言い出すんだから。」
「……面目ねェ」
「大切な友達をクズ男に渡すわけにはいかないからね!迫真の演技だったでしょ〜。」
アリスちゃんはにっこりと笑った。ああよかった。いつも通りの可愛いアリスちゃんだ。
「…でもさ、あの飛び蹴りは本気だったよね」
「?あったりまえじゃない」
この会話を聞いて、実弥は鳩尾をおさえて冷や汗をかいていた。