第36章 許せない
痛いほどの圧迫感と、ちょっと汗で湿ったシャツに包まれて、抱きしめられたのだとわかる。
久しぶりのことに嬉しくなる。いや、でも。無理。
「ぐ…っ…苦しい………」
「わっ悪い」
実弥がバッと私から体を離した。でも、その手は私の肩を痛いほど掴んでいた。
その時の彼の顔を見た。
傷だらけの顔は耳まで赤かった。いつも親の敵みたいに何かを睨む目が優しい光を灯していた。手の温度が暑くて、何かを口にしたいのにうまく言葉にならないのか、言葉にもならない唸り声をあげていた。
「俺の!」
「はっはい…」
「俺との、子か!!!」
「も、ちろ!ん!!!」
あまりの剣幕にうまく話せなかった。あまりにも身を乗り出してくるものだから渾身の力でぐっと彼を押し返した。
「誓って!!あなたの子です!!!」
そう言うと実弥はまた私を抱きしめた。苦しかったので私はそれを振り払った。でも実弥はまた無理に抱き締めてきた。
今度は、優しい力加減で。
「……すげェ嬉しい…!!」
開口一番に、そう言われた。そして、グスッと鼻を啜る音が聞こえた。
「………泣いてる、の?」
「…ばか、嬉しいのに泣くか」
そう言って私の肩に顔を埋めてきた。ちょっと生ぬるくて、どんどん服が湿っていくのがわかった。…泣いてんじゃん。
「……私、怖かったの。実弥がどんな顔するかなって。…言っちゃったら、離れられなくなると思ったの。きっと私は許せないのに許してしまうから。」
アリスちゃんが言っていたみたいに、私は自分の気持ちに嘘はつきたくなかったんだろう。
怒って、怒って、やるせなくて、悲しくて。
本当はずっと言いたかった。私だって嬉しかった。ずっと、子供はできないんだと思ってた
私は実弥の背中に手を回した。
「ねえ、私、この子産んでもいい?」
また実弥がグスッと鼻をすすった。
「いいって、いうか、そうしてほしい。」
彼がここまで泣くのは珍しいので、私は思いっきり笑ってやった。けれど、その間実弥はずっと泣いていた。