第36章 許せない
「じゃあ戻ってきてくれるんだな」
「え?だからしばらくは戻らないって」
実弥は動揺してテーブルの柱に足をぶつけていた。
「な、なんでだ、俺に不満があるのか?!」
「ないよー」
「じゃあなんで戻ってきてくれないんだよ!?引っ越しはもちろん手伝うしできることはなんでもやる!!」
「こっちでやることがあるから…」
私はここまできて渋ってしまった。
…今度は私が緊張する番だ。
「……あのね」
「…あ?」
「私、あなたと別れて「別れてねェ」……はいはい。出て行く時に実弥に黙っていたことがあるの。」
私はガサゴソとリュックを漁った。
そう。私はちゃんと持ってきていた。
「言うべきだとはわかってた。でも、これを言えば実弥は私に気を遣って自分の気持ちよりも私を優先すると思った。それが嫌だったから黙ってた。」
「……」
「だから、これを聞いても自分の意思を優先してほしいの。」
実弥は眉間に皺を寄せる。
私は深呼吸をした。
「婚約者に戻ったから、私はこれをあなたに伝える義務があると思う。だから伝える。あなたに何かを強制するつもりはないから、それだけわかっていて。」
そう言うと実弥は頷いた。
リュックからそれを取り出し、実弥の目の前に置いた。手が震えているのをバレないように、すぐに手は引っ込めた。
裏返しになった写真だった。実弥は恐る恐るといったようにそれを手に取り、ひっくり返して表を見た。
「……!」
目を丸くしていた。
そして、バッと顔を上げた。それと同時に勢いよく立ち上がった。
「これって」
渡したのは、エコー写真。
実弥と再会した日に撮ってもらった最近のもの。
「…妊娠、し」
言葉がそこで止まってしまった。まだまだ話したいことがたくさんあったのに。