第36章 許せない
『お前は誰にも愛されないんだ』
『近づくな!人殺し!』
『何笑ってるんだよ、気持ち悪い』
『お前のせいでアイツは死んだ!』
『なんですぐ来なかったんだよ!!!』
みんな、私を殴った。蹴った。罵倒した。石を投げた。
それでも良かった。
だってみんなが幸せならそれで私も幸せだから。
それで良かった。
それで、良かったのに。
「いいの」
小さい声が出た。
前世で幼い頃、あの劣悪な環境から解放された時を思い出した。初めて暖かいお風呂につかって、美味しいご飯を食べて、ふかふかのお布団で寝た。
私を助けてくれて、しばらく面倒を見てくれた煉獄家の人に、言ったことを思い出した。
「『私、こんな素敵なものもらっていいの?』」
知らなかった。
知らなかった。だって誰も言ってくれなかったから。誰もくれなかったから。
もらっちゃいけないと思ってたし、もらえないと思ってた。
「…いくらでもやる。俺がお前にやれるもんは全部やる。」
「………」
私は遠い幼き日を思い出した。
そして、ほんの少しだけ微笑んだ。
「じゃあ、私の全部もらってくれる?」
私は自分が嫌いだ。自分を好きになれない自分が嫌いだ。
「あァ、全部もらう。だから俺も俺の全部をにやる。」
だからこそ、他人の絶対的な愛が欲しかったのかもしれない。
「…ありがとう」
私は笑った。久しぶりに実弥の前で笑顔を見せた気がする。
『私、こんな素敵なものもらっていいの?』
『…ええ、もちろんですよ』
『なんで?』
『あなたが、大切な存在だからです。』
『嘘だ』
『…』
『お父様もお母様も、そんなこと言わなかった。お兄様たちはお家に帰ってこないし、そんなの全部嘘。』
『……』
それからどうなったんだろう。どうしたんだろう。もう覚えてはいない。
『私が大切なら、どうして誰も大切にしてくれないのですか』
私は、ただ自分自身に絶望していた。だから誰かを大切にしようと思った。みんなを守ろうと思った。その幸せは何にも脅かせることはしない。
だから、強くなろうと思った。