第36章 許せない
これで、実弥がどうでるか。なんて言ってくれるのか。わがままでバカでどうしようもない私に、なんて言うのか。
「実弥は、あの人が結婚してたから私を選んだの?」
沈黙が痛かった。
ずるい質問をしたと思う。
「そうじゃない。」
「そ。」
実弥は何か言葉を探しているみたいだった。
なんだかその様子が白々しく見えた。
ああ、この人もみんなと同じか。父さんや母さんと同じ。私に石を投げた人と同じ。
結局は、みんなと同じ。
なんだか心が冷めきっていく。何を私は考えているんだろうか。バカみたい。勝手に上から物言ってさ。
私にひどいことをする人が悪者なの?違う。だって私は世界の基準ではない。私は、駄々をこねているだけだ。
私を見て。
お願い、私を見て。私を大事だと言って。愛して。好きでいて。見捨てないで。置いていかないで、お願い。お願いだから。
それを証明してくれない実弥なんて、大っ嫌い。私以外の人を好きになる実弥なんて大っ嫌い。嫌い、嫌い。好きじゃない。それなら一緒にいたくない。
……なんて、バカみたいなことを考えている。
ああ、馬鹿じゃん。本当に。
実弥は私だ。私と全く同じことをしている。何偉そうにものを言っているんだろう。
全く同じことを、無一郎くんにしたくせに。
無一郎くんがあんなに懇願したのに、全部つっぱねた。あの子の心に、願いに、気づかないふりをした。だって離れる時が辛いから。
嫌になる。本当にこんな自分が嫌になる。
ずっと自分に嘘ついて、誰かのためだと言いながら結局は自分のため。
私は、わがままだ。
自分が幸せになりたいと、願ってしまう。
鬼殺隊にいた頃は、前世では一度も思ったことがないことだ。
「玄弥、鬼殺隊だったんだ」
私の意識はもうとっくに実弥の元にはなかった。けれど、唐突な発言に、一気に意識が戻っていった。