第36章 許せない
バイクを駐車場に停めて、ヘルメットを外す。待ち合わせは個室のレストランだった。
「あ〜ここね。美味しいって有名よ。食べられるならビーフシチューがおすすめね。」
「そっかあ…ありがとう。」
「あ、アイツいたわ。」
アリスちゃんがギロリとある方向を睨んだ。そこには実弥がいて、私たちの元へ近づいてきていた。
「あ〜ら、こんにちは、クソ野郎。今日はいい天気ね。あんたが来たせいで荒れそうだけど。」
「あ?」
「あ?じゃねえよ。」
ばちばちっと二人の間に火花が散る。
「…あの〜、お、おちつこ?ね?」
「おい、今のところちゃんの身を預かってるのは私なんだからな。傷一つつけたらバイクで引き摺り回す。泣かせたらお前の傷跡に砂塗り込んでやる。」
「あ、アリスちゃ〜ん…」
殺気剥き出しの彼女に私は冷や汗が止まらなかった。
しかし、実弥は冷静だった。
「もちろん、泣かせないし傷ひとつつけない。それは約束する。」
「……っ!!」
真っ直ぐな目でそう言われて、アリスちゃんはおしだまった。
「はああああああああ〜うっざ」
「あ?」
「べっ」
アリスちゃんは捨て台詞としてそう言い、舌を突き出してバイクを走らせて行った。
「あ、あの、アリスちゃんっていい子なのよ。あんまり怒らないでよ。」
心配になって言うと、彼は後頭部をガシガシとかいた。
「ああ。いい友達だな。」
諦めたようにそう言って笑った。その様子がおかしくて、思わず私は吹き出してしまった。