第34章 静かな暮らし
アリスちゃんは正式な手続きを踏んで絵を買ってくれた。
いやあ、なんかいい仕事したなって感じ。
仕事はうまくいっている。とにかく、動けなくなる前に絵を描きまくり、これまでの貯金を合わせておおよその出産費用は貯まった。
けれど、子供は生まれたら終わりではない。
準備しないといけないものがある。服とかオムツとかミルクとか…調べただけでも数え切れないほど。
収入は絵の仕事で十分だ。仕事場所は家だし、融通もきく。けど子供が産まれた後で絵を描く余裕があるかは…。
いや、描く。死んでも描く。だって生きていけないし。シングルマザーは援助が受けられると言うけど、それなりにクリアするべき条件もあるだろうし……。
とかなんとか、最近はひたすらスマホと睨めっこ。足りない知識は産婦人科や子育て関連の無料イベント、図書館などで補う。
…出産に動けなくなる前に買い出し行かないとな。必要なものありすぎて…。
お弁当屋さんの仕事に絵を描いて調べ物して必要なものをちょこちょこ揃えて、あといつまでもアリスちゃんのところにいるわけにもいかないので赤ちゃんと暮らせていけそうな物件探し。あと、在宅とはいえ働いてるわけだから保育所探しも。
とかなんとかしていたら、産婦人科の先生に言われた。
「働きすぎ」
「えっ」
「もっと自分と赤ちゃんを労ってごらん。」
がん、と頭を硬いもので殴られたような気がした。
「あ、全く動くなってわけじゃないのよ。けど、あなた最近痩せてない?ちゃんと食べてる?」
「ええと……」
「今のところ順調だから大丈夫よ。不安にならなくてもいいけど、頑張りすぎも良くないのよ〜。」
先生がニコニコ笑顔で言う。
…ああ、母親になるって難しいなあ。
私のお母さんもこんなに不安だったのかな。
……話を聞いてみたいけど、あの人の相手をする元気はないな…。