第34章 静かな暮らし
産婦人科の帰り道。
最近はバスに乗るだけで気持ち悪い。何とか我慢して振動に揺られているが、これがなかなかきつい。
そんななか、病院でもらったエコー写真を見ると元気が出てくる。性別はわからないままにしているが、今から可愛くてしょうがない。漠然とした不安を増すほどの愛しさというか、母性のようなものが現れた。
最寄りのバス停で降りて、下宿先まで戻る。帰ったら楽しいことしよう、なんか動画見たりして絵を描こう。うん。それがいい。
そんなことをぐるぐると考えながらお店の前まで戻った時、もう閉まったはずの店内から大きなアリスちゃんの声が聞こえてきた。
「だから!帰れって言ってんでしょ!!」
外まで怒鳴り声が聞こえてきて、ハッとした。
…何か大変なことが起きているんじゃないだろうか。
私は慌てて店の中に…走りたかったけど安心安全を考慮してゆっくり歩いた。
「テメエと話すことはねえよ!!」
やばいやばい、アリスちゃんめっちゃ怒ってんじゃん。あの子、高校時代にヤンキー相手にキレて大問題起こしたことあるんだよ。やばいやばい。警察沙汰になる前に何とか…!!!
「アリスちゃん!!お店の外まで声聞こえてるよ!!あの時みたいな喧嘩は……!!!!!」
大乱闘になっているかと思いきや、何事もなく平和だった。
店内にいるのはアリスちゃんだけではない。
彼女の目の前にいる人物が見えた瞬間に心臓が跳ねた。
その時、ポケットの中のスマホが震えた。それに驚いて慌てて取り出そうとすると、誤って落としてしまった。
スマホの画面にメッセージが表示される。
木谷優鈴、と名前が表示される。
『あいつ、もしかしてお前のところに行った?』
地面のスマホからゆっくりと顔をあげる。
実弥は、確かに私の目の前にいた。