第34章 静かな暮らし
「復讐を目論むものは少なからず、存在するの。」
私はじっと彼の目を見つめた。
「鬼側だけだと思わないでね、無惨。」
「…なるほど。そう言うことか。」
鬼殺隊は鬼を倒した。けれど、綺麗事だけでは済まされない。無惨はそれだけのことをしたのだと思う。だが油断ならない事態が続いていることは確かだ。
私はただ、それが恐ろしい。
鬼殺隊は鬼に虐げられた者だ。無惨相手に復讐を、とたくらむ者がいる。春風さんみたいに未来予知ができるわけではないが、はっきりとしない漠然とした不安……そんなものを感じたのだ。
「今のあなたの様子を知ったら…変わるのだと思う。けれど、みんなそれを知らないでしょう。もうすっかり有名人になってしまったから、ほとんどの鬼殺隊の人たちはあなたを認知している。…それが不安要素でもある。」
「ふん、それを恐れているのか。」
無惨はニヤリと笑った。
「まあ、お前たちも刀を持たない今は何もできないと思うがな。」
「…そうだといいんだけど。本当に気をつけてよ。人間の想いの恐ろしさ、あなたは知っているんじゃない?」
「……。」
罰の悪そうな顔をするので、なんとも言えない気持ちになった。
「ああ、わかっている。…これ以上は鬼殺隊側に関わるつもりもないからな。」
「うん、それで良し。」
「…お前は不気味な女だな。私相手に一人で全て片付けてしまうとは。」
「一人じゃないってば。鬼殺隊…みんなの力だよ。」
「ふん。」
無惨は鼻で笑った。
「まあ、一晩とはいえ元は一心同体だった身だ。何かあれば頼っていいぞ。」
「…うん。」
まさかの言葉に、少し拍子抜けしてしまった。
「その表現はマジで気に食わないけど、どうもありがとう」
私の口から出た言葉も、意外なものだった。