第33章 みんなの幸せ
先生は女の人で、いつもニコニコしている。
「確かに、7周目に来たかなって段階だね。」
今日ばかりは目を丸くして驚いていた。
「びっくり。しばらく来ないと思えば。」
「…ああ、しばらく来られなかったのは……。」
私は素直に自分の身に起きたことを先生に話した。
付き添いのアリスちゃんと一緒に先生は埴輪みたいに口を開けたままポカンとしていた。
「…心臓が止まった……!?」
「今は経過観察なんですけど、何も異常はないです。」
「そんなことある…?」
先生は首をかしげながらコンピューターに向き合った。
「うーんっ、確かに悪いところはないみたいね…。ていうか、そんなことがあったって信じられないくらい超健康!」
「…私と会う前に何があったのよ」
アリスちゃんは頭を抱えていた。…まあ、急にこんなこと聞くとそうなるよね…。
「とにかくは妊娠を喜んでいいよ。奇跡とかそんな次元じゃないくらいの話だから。でもやっぱり体のことは付き纏うと思うよ。全力でサポートするけど、産むって言うなら覚悟しといて。」
「……はい。」
この言い方だと、私が産まない選択をする可能性も考えているんだろうな。
「この状況だと何も言えないんだけど、万が一ってこともあるの。タイムリミットは22週目までね。12週までならあなたへのダメージも少ないわ。」
「わ、わかりました。」
生々しい話になんだか吐き気がした。そんな私の背中をアリスちゃんがそっとさすってくれた。
「細かい話はさっきの病院で聞いてきたので大丈夫です。ね、ちゃん。」
私は彼女の言葉に頷いた。
「じゃあ、次来るまでに母子手帳もらっておいてね。」
「…はい」
そこで私たちは病院から外に出た。
顔見知りの先生の顔を見たおかげなのか、私の足取りは軽かった。