第33章 みんなの幸せ
「心当たりはあるの?」
アリスちゃんの声音は優しかったが、疑り深い視線だった。
「ある…。」
「父親は?」
その質問には少し間を空けてから答えた。
「別れた」
今度はアリスちゃんが沈黙した。
「……。」
アリスちゃんが口を開く。
「…浜辺に一人…荷物持って……宿無し…妊娠…男とは別れて……」
ぶつぶつと呟き、きっと目を釣り上げた。
「ちょっと!!あんたどんなクソ野郎に引っかかったのよ!!!」
「え」
「あれでしょ!?捨てられたんでしょ!?!?それでここまで逃げてきたんでしょ!?!?」
「え、ちがう、ちがうって、アリスちゃ」
お構いなしに肩を掴んでぐわんぐわんと揺すってくる。あああ気の強い感じ、学生時代から全く変わってないんですけど!!
「待って待ってすごい変な勘違いしてる!変なストーリー捏造してるうう!!」
「じゃあどういうことなのよ!?」
…ここにきて、初めて彼女と再会したことを悔いている。
「……ほ、方向性の違いかなっ」
「は?音楽の話?相手はバンドマンだったの?」
「…いや、数学教師……」
……やっぱちゃんと話さないとダメかあ。
「なんの方向性の違いで数学教師と揉めるのよ。」
「い、いや…その……」
ああ、なんて言えばいいのかな。
「…私はね…彼に幸せになって欲しかったの。彼が幸せになるなら私はいらないって思ってた。けど、彼はね、私がいればそれで良いって言ったの。
結婚も何もしてないし、特に繋ぎ止めるものもなかったから、私はいつでも離れるつもりでいた。でも…頭ではそう考えていても、最近、私おかしくて…。離れるのが辛かったの。」
ふいに、最後に見た彼の顔を思い出された。……どんな顔してたっけ。なんか、ついさっきのことなのにどんどん記憶から薄れていくなあ。
「彼のこと大好きだったし、彼はどんなことがあっても私のこと好きって言ってくれたけど、私、フッちゃった。」
気づけばポロポロと涙が溢れた。
あーぁ。勝手に話して勝手に泣くとか。それに、話してることも無茶苦茶だし。