第33章 みんなの幸せ
加賀美アリス。
私の高校・大学での同級生である。
苗字がカガミっていうものだから、一時期はあだ名が「鏡の国のアリス」で、みんなにからかわれて文化祭の劇で主役をしたこともある。
アリス、という名前の通り外国の血が入っている。母親がそうだったのかな。どこの国かは忘れたがハーフだったはずだ。
日本人離れした髪色に、寒色系の瞳。顔も抜群に可愛くて、高校時代一番仲が良かった子だ。大学も同じだったけど、卒業してからは疎遠だった。
「本当に久しぶりだね!浜辺に誰かいるから珍しいなあって思って近づいたんだけど、まさかのちゃんでびっくりしちゃったよ。」
「あはは…」
二人で砂浜に座り込んで、思い出話に花を咲かせていた。
が、私は内心パニックだった。
…しまった。誰もいないところに来たつもりだったのに。そういえば、アリスちゃんは海の近くに住んでるって聞いたことがあるような…??
いや、だからってこんなところで会うか普通ーーーーーーー!!!
アリスちゃんは存在感のある見た目なのに、なぜか影が薄い。いや、悪口とかではないんだけど。
どれだけ集中しても気配を感じ取ることができないのだ。本人もそのことに関する自覚があったらしく、みんなを驚かせてはクスクス笑うような朗らかな子だった。
「私ね、お弁当屋さん始めたの。」
「えっ?」
「美大卒業した後、絵でうまくいかなかったから…。」
アリスちゃんは悲しげにそう言った。…ああ、そうか。美大出身だからって絵で食べていける保証なんてないもんね。そういう子はたくさん見てきた。
「それで、下宿を運営してるの。」
「下宿…?」
「そう。私のお弁当屋さん手伝ってくれたら、お店の2階を住居として貸してあげることにしてるの。」
「…住み込みバイトみたいな?」
「そういうこと。で、住み込みで働いてくれてた人が怪我しちゃって、しばらく部屋があいてるんだよね〜。それで頭抱えてたってわけ。」
アリスちゃんは私の小さなスーツケースにチラリと目を落とした。
「なんかよくわかんないけど、住む場所ないんだよね?家来てくれない?」
「え」
「働き手がいないから今厳しいんだよね…」
アリスちゃんは緑色の瞳で遠くを見つめた。…かなり切羽詰まった状況なのがわかる。