第31章 最後の繋がり
「納得できねェ」
実弥が私に言った。
「お前だって言ってただろ。前世と今は違うって。だから、俺だって違うんだよ。好きなのはお前だけだ。」
切羽詰まった声だった。
「…その、アイツと会ったのは…ちょっと前なんだ。お前がいなくなった後に帰ってきてすぐくらい…。前世じゃ連れ添ってくれた奴だから…無視するわけにもいかねぇって、そう思ってたんだ。」
実弥はちゃんと説明してくれた。
でも、私はその続きを聞く気にならなかった。
「その人が好きなら、それでいいじゃない」
思ったことをそのまま口にしていた。
「とにかく、もう出るから離して。」
「…!」
「電車、乗るから……」
実弥は乱暴に私をフローリングに押し倒した。強い衝撃に一瞬呼吸が止まる。
「どこ行く気だよ」
今まで見たことがないくらい、顔が怖かった。
「……。」
私は冷静だった。
「なんか、実弥、お父さんに似てる」
無感情にそんなことが言えてしまった。
「お父さんってね、家の中じゃずっとイライラしてたの。物音ひとつ立てたらすぐ怒って私の部屋に入ってきて、私を殴って満足そうに部屋から出て行った。
何が気に食わないのかなって、最初は色々考えて、お父さんに好かれる子供になりたくて、そのことだけを考えてた。
でも、ある日ね、無理だって気づいたの。私は人に好かれるような人間ではないんだなって。」
何を言ってるんだろう。
いったい、何を。
「それで、最後はね。あの人は私の体を欲しがった。」
実弥は何も言わなかった。
顔に影が落ちていく。
「こんなことになってまで、一緒にいる意味ってあるの?」
私は顔を手で覆った。
「実弥は…ずっと優しかったし、私のこと大切にしてくれてたけど、結局は私が全部台無しにしちゃったんだね。お父さんやお母さんが言ってた通りだ。私がだめだったんだよ。」
実弥の顔が見られなかった。
ああ、どうか、嫌いだって、最低だって、私のこと殴ったりしてくれないだろうか。
けど。
そんなことしないって、もうわかっているから。
「君といるのは楽しいけど、それ以上に今は悲しくて苦しい」
私が言う。