第31章 最後の繋がり
人の感情を読むのは得意だ。
あの人は。
実弥の隣にいた、あの人は。
そして、実弥は。
「10年以上、私のそばにいてくれてありがとう。隠し事ばかりでごめん。家のことに巻き込んでごめん。自分のことばかりで一緒にいられなくてごめん。
でも、ちゃんと大好きだったし、愛してたよ。」
私は小さな箱を取り出し、そっと実弥の近くに置いた。
「ごめん、やっぱり受け取れないや。」
それはプロポーズの時にもらった結婚指輪だった。思えば、最近ほとんど身に付けていなかった。
「待て、」
実弥はそう言ったが、そこから何も言わなかった。
言葉が出ないらしい。今必死に何を話すかを考えているようだ。
「幸せになってね」
そんな彼にかけた言葉がこれだった。
我ながら、もっと他になかったのかと…。
「そのうち出ていくから。契約が切れるまではちゃんとこの部屋の家賃と光熱費は振り込むし、あと…迷惑かけたことで慰謝料とか欲しかったら全然「ふざけるな!!!」」
実弥が怒鳴った。
…ああ、やっぱりこうなるのか。できれば穏便に済ませたかった。まるで、ぐちゃぐちゃに拗れてたあの時みたいだ。実弥のプロポーズを断った、あの夜みたい。
「何で二言目には金って言うんだよ!!何で俺の話は何も聞かないで全部決めてんだ!!」
「私は君が幸せならそれでいい。」
「ッ!!勝手に俺の幸せをお前決めつけてが押し付けてるだけだろ!!!」
………。
ああ。
そうだね。
その通りだよ。
「俺はお前と一緒にいられればそれで良いんだ…何でそれがわからねえ!!」
実弥はぎゅっと縋るように私を抱きしめた。
「…何で……」
消え入りそうな声だった。
私は彼の腕の中で、少しだけ寂しさや悲しさのようなものを感じた。