第30章 晩夏、初秋
『お前の幸せはどこにあったんだ?』
とくん
言葉で表すなら、そんな感じ。
私は慌ててお腹をおさえた。
目覚めた途端に私は“ソレ”を感じた。
夢の中で誰かに何か言われた気がしたが、もはやそんなことはどうでもいい。
「うそ」
感じる。
確かに感じる。懐かしい、この気配。
私は慌てて起き上がり、部屋の中を見渡した。実弥は今日もいない。私一人だ。
「にゃあ」
いつの間にか枕元にいたおはぎが私にすり寄ってきた。おはよう、と言っているみたいだ。
「……どうしよう」
情けない言葉が出た。
どうして。
どうして、今なの。
「実弥……」
電話をしようとスマホを握る。
その時、おはぎはぴょんと私の膝下に飛び乗った。すりすりと体を擦り付けてくる。青い瞳を見ていると、不思議と心が落ち着いていった。
「…」
だめだ。
言えない。だって、実弥は。言ったら呪いになる。それだけはだめだ。
私はおはぎを抱き上げてフローリングにおろした。
おはぎが抱っこしろと言わんばかりによじ登ってくる。今日はやけに甘えん坊だ。
そっと頭を撫でてやる。
私は起きて身支度を始めた。