第30章 晩夏、初秋
実弥が帰ってくる前に、と思って部屋中の荷物を引っ張り出した。いらないものは捨てた。とにかく必要最低限のものをスーツケースに詰め込んだ。
「にゃあ!!にゃあああああ!!!!!」
ドタバタ動く私の側でおはぎがやたらと興奮していた。私の荷物の周りをぐるぐると徘徊し、たまに猫パンチを繰り出す。
「こら、おやめ」
「にゃあああんん」
何度注意してもおはぎはぽこぽことダンボールに包まれた荷物を叩く。
「にゃあ!!うう!!ぐるるる」
ぺんぺんと私のスマホを持つ手を叩いてくる。
「どうしてそんなに機嫌が悪いの」
「にゃああん…」
おはぎは一際高い声で鳴いた。
少し元気がなくなったように見えたが、すぐシャキッとして大慌てで私の部屋から飛び出していった。
「今日はやたら元気だなあ」
と、言っているうちにガチャリと玄関で音がした。
あ。
そういえば最近ないから忘れてたけど、おはぎが玄関に行くときは実弥が帰って来るときだった。
「あ?なんだよ、お前…!服かじんな、こら」
実弥が優しく叱る声が聞こえる。…ははあ、実弥相手にもエキサイトしてるんだな。
「おい、待て、なんなんだよ」
ドタドタと物音が聞こえる。
……。
流石に黙っていなくなるつもりはない。やっぱり話し合わなきゃだよなあ…。
私が意を決して彼を部屋に招こうとする前に、実弥は部屋に入ってきた。
おはぎが実弥の服に噛み付いてぐいぐいと引っ張っていて、まるで私の部屋に連れてきたみたいだった。
「…は?」
実弥の顔が青ざめていく。
すっかり荷物が片付けられた部屋と、その部屋の中心で荷物に囲まれて座り込む私を見て溢れんばかりに目を見開いた。
まあ、それはそうだろう。
だって、どう見たってこの部屋から出ていく準備をしているのだから。
「おかえり」
私は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「ちょっと話そう」
少しだけ、心臓が早鐘を打っていた。