第30章 晩夏、初秋
夜が寒い。
夏がもう終わろうとしている。そのうち秋が始まる。おはぎは実弥の部屋で寝ることがない。私の部屋で一緒に寝ることが多い。
「あなたがいるとあったかいね。」
猫ってなんでこんなに暖かいのかな。
私はすぐに眠りについた。
そして、夢を見た。
『お前は誰にも愛されないんだ』
父親の声がした。
『仕方のないことだよ、この時代に女として生まれた時点で男よりも劣るし。』
いつの話?うん、これ、前世かな。
ああ、なんか、体が気持ち悪い。
『だから、父が愛してやるんだ』
やだ
触らないで
『お前はかわいいからな』
私の手が枕元に落ちた本に触れた。
そっか。
私、今からこの人を殺すんだ。
いやな気配がしてすぐに目を開いた。
私に近づくその手を払った。
「何、か、よう?」
荒い息を整えながら目の前の実弥に尋ねた。
真っ暗なせいで顔が良く見えない。いや、見えなくて良かったのかも。実弥はやっぱり怒っているみたいだった。
「……」
実弥は私の隣に腰をおろした。
「起こした、か」
確かに怒ってはいるが、なんだか怯えているみたいだった。
「悪い」
「うん」
私はたまらずに彼を抱きしめた。その体が震えていた。
「……ごめん」
実弥が私の背中に手を回す。
「いいよ」
私はにこりと笑った。
「いいんだよ」
おはぎが飛び起きて部屋の外へと出ていく。まるで、今から行われることを察知したみたいに。
「ごめん」
実弥は謝った。
けれど、手を止めることはなかった。