第30章 晩夏、初秋
先輩は疑わしそうな目を最後まで変えることはなかった。嫌な空気を感じ取ったのか雛鶴さんたちが適当なことを言ってその場を解散にしてくれた。
「…ごめんね、天元様ったら失礼なことばかりで……。でもそれだけ二人のこと心配してると思うんだ。」
「まきをさん」
「…立場全然違うから、こんなこと言っても…だけど、ちゃんと味方だからね。」
「…ありがとうございます」
「また旅行行こう、それじゃあね」
彼女はそう言い残して駆け足で先に行ってしまったみんなを追いかけた。
結局また魚を買った。
ネットで美味しそうなレシピを調べてその通りに調理してみる。そっくりそのままとはいかないが、案外ちゃんとできた。
台所で作業をする私の元におはぎがすり寄ってくる。
「にゃあ」
「うんうん、今日もあなたは最高にかわいいね。」
台所でそんなことをしていると玄関から物音がした。ドアが開けられる。
実弥のおかえりだ。
最近、おはぎは実弥のお出迎えをしなくなった。前までは気配がしたら玄関でじっと待っていたのに。
実弥の気配を感じると私に甘えてくる。実弥が帰ってくる直前で、不思議と。飼い主たちの変な空気感が伝わっているのかもしれない。
実弥がイライラして、私がじっと時間が過ぎるのを待って、その間この子はふらふらと私たちの間を行ったり来たりする。
家の中でくっつき合うこともなくなった。話す言葉も減った。
私はそれに不満はない。
(ただ時間が過ぎるのを待てばいいだけ。)
楽だ。
その間はずっと笑っていればいい。ニコニコしていたら誰も文句は言わない。
「ただいま」
最低限の挨拶はしてくれる。
「おかえり」
だから私も、それに応える。