第30章 晩夏、初秋
歯車がずれる。
少しずつ、少しずつ。
少しずつずれれば、それは大きなものになる。…阿国が言っていた通りだ。私たちの歯車も狂っている。
「殴り込みに行くか?」
「そんな物騒なことやめてくださいよ」
先輩は冗談か本気かわからないことを言う。
…そういえば、昨日どこに出かけるか聞いてなかったな。聞いとけば良かった。
休みの日に出かけるなんて今思えば珍しい。
「ていうか、宇髄先輩こそあの人を知ってるんじゃないですか?」
そう聞くと微かに先輩の感情が揺らいだ。もう私は確信している。
「…お前……知ってたのか。」
「一応は。」
「……そうか…お前、鬼だったのか…」
先輩は意味深にぶつぶつとつぶやいた。
「……生きていたのか、ずっと」
そして、一つの答えに辿り着いた。
「…じゃあ…お前、いつまで生きてたんだよ?」
「それは内緒です。…誰にも言うつもりはないんです。」
先輩は顔をしかめた。
「……お前、まさか…大正時代からずっと生きてるわけじゃないよな?」
「え、それはないです。私ぴちぴちの25歳です。」
「25歳はぴちぴちじゃねえぞ。」
私がクスクスと笑っても、先輩はずっと険しい顔をしていた。