第30章 晩夏、初秋
「例えば、だ」
そこから謎の講義が始まった。
「不死川と…あー、甘露寺が二人っきりで出かけてたらお前はどう思うよ」
「すみません、そのシチュエーションが全く想像できませーん」
「申し出は却下。考えろ。」
いや待てよ。何でだよ。
全く想像できないよその瞬間。
「…実弥って蜜璃と仲良いんですか?」
「良いから考えろ。」
…ええ。
……実弥と蜜璃が二人っきり…。
「…いや、ありですね。見てみたいですその場面…。」
「………。」
え?
何で先輩たち黙った???
「じゃあ、人を変えよう。不死川と胡蝶姉。」
「仲良いですよねぇ、あの二人。」
「胡蝶妹。」
「年下か…。」
「…保険医の珠世」
「……いや、私圧倒的美女が誰かのものになるのは耐えられないというか。」
「待て待て待て待てさっきから何言ってんだお前。」
宇髄先輩はこめかみをピクピクと痙攣させた。…怒ってる?いや、これはドン引きしてる感じか??
「二人っきりだぞ。自分の!彼氏が!異性と!!」
「この時代に異性=そういう関係という考え方、嫌いです。」
「ああそうかい!!じゃあお前は不死川が他の女に惚れちまっても平気なんだな!?」
「ちょっ、ちょっと、天元様…!」
雛鶴さんが慌てて先輩の口を塞ぐ。
「…まあ、幸せなら良いと思います。」
その様子に適当に返事をした。とはいえ本当のことだ。そんな時がくれば私は潔く身を引く。
「…お前なあ、ちょっとは悲しんだりしろって」
「いえ、みんなが幸せなら私も幸せなので」
そう言って笑うと、宇髄先輩はため息をついた。
「やっぱお前とは考えが合わねえ。」
「…今更ですよ。」
それは前世からだ。
「お、噂をすれば不死川じゃん」
先輩が指をさしたのは窓の外。かなり遠かったが、そこには確かに実弥が見えた。
「……お前、あの隣のやつ知ってる?」
罰が悪そうに先輩が聞いてくる。実弥は女の人と歩いていた。
そして、私はその人を知らない。
でも、その存在を知っている。
ああ、そうか。
いつかは、出会って然るべき二人だろう。それに、最近の実弥と私は…。
「霧雨?」
「ん?…ああ、知ってますよ、あの人」
私はにこりと笑った。