第29章 海は広くて大きいが
「私、みんなを疑ってるとか、頼りなく思ってるとか、頼ってないとか、そんなつもり全然なかったです」
自然と言葉がすらすらと出てきた。
「今もそんなことないんです。皆が傷つくくらいなら私が傷つきたかった。強くなって守りたかった。……幸せな未来に、私がいなくても…いいと思って……。」
「…」
「最近はどうもそんな風に思えないんです。ずっとみんなといたいなって…。いや、きっと先輩の言うあの頃もそうでした。」
私は。
結局は、鬼になってまで生きていた。死のうと誘ってくれたアマモリくんの要求を突っぱねて。
「…変、ですか。私……。やろうとしてることと考えてること、全部めちゃくちゃだから…何が正しいのかわからないんです。」
先輩は私が言い終わると同時に立ち上がって窓を閉めた。
「間違っていると言われたいのか」
「……え?」
「私にはそう聞こえる」
怒っているようだった。私よりずっと体の大きな人だ。伝わってくる怒りの感情の迫力に声が出てこない。
「お前はどうありたいんだ。お前はみんなと一緒にいたいのか、いたくないのか。一緒とは何のことだ?ただそばにいれば良いのか、足並みを揃えていくことなのか。強さや弱さなど関係なく、お前はどうありたいんだ?」
「……わ、たし、は」
先輩に問われてまた頭がごちゃごちゃした。
「…みんなと、いたい、けど、それができないんだと…思うんです」
「できない?」
「……だって。」
人を殺したし、鬼になったし、鬼になった後も実はずっと生き続けていたし、今は家族のこととか、あと無惨のこととか、色々とあるし。
本当にこれで良いのかわからない。鬼を斬っている時は良かった。まだ自分の存在意義のようなものを見出せたから。
けれど、今は何もない。
病で弱った体。整理できない頭。何かが私につきまとう。私はどこへ行っても堂々とした生き方はできないんだ。
「お前は間違っていない。私はたとえ死んでも正しくないとは、言わない。」
ぐるぐると同じことばかり考えていると、怒りの感情とはほど遠い…優しい声がした。