第29章 海は広くて大きいが
そう呟くと同時に一歩前に進む。
……………。
どうしたらいい。
私はどうしたらいい。
「………」
ぴちゃり、とサンダルをはいた足に海水が触れた。
「………」
また一歩進む。
あぁ、苦しいだろうな。溺れたら息ができなくて、それで。
足首まで完全につかった。
私はぼうっと立っていた。
「……………」
また一歩踏み出そうとした
その時。
腕を引かれた。
「…何をしている」
「……っ!!」
それが予想外の人物すぎたことに開いた口が塞がらない。
「行冥」
今度は向こうの開いた口が塞がっていない。
あっ。
しまった。
この呼び方はまずい。
「ちっ、ちがっ」
腕を振り払って後退する。
その時、足がズルッと滑った。
海水で見えなかったがどうやらそこだけくぼみになっていたらしい。
「ぎゃあ!!」
アヒルのような悲鳴をあげ、まんまと足をひっかけた私は盛大に水しぶきをあげて海水の中にずっこけた。